核兵器廃絶地球市民集会ナガサキによる2015年NYで行われたNPT会議のリポートです。

 NPT再検討会議 参加報告 ~核廃絶の行方~
          団長 朝長万左男

  〈全体を通して〉
  5 月 27 日から開始された 2015 年 NPT 再検討会議に、 核廃絶地球市民長崎集会派遣団 (市民 17 名と県職員 3 名) の団長として参加してまいりました。 このほか長崎からは田上市長ら市職員と被爆者団体など総勢 97 名が参加し、 前日には世界の NGO 団体約 7,000 人でニューヨークの市街を約 6 キロにわたってデモを行いました。
  1 週間の滞在中、 地元ニューヨークの NGO 団体"Hibaksuha Stories"のキャサリン・サリバンさん達の絶大なご支援を受け、 二つの高校の生徒達との交流会、 日本人学校訪問など国連外の活動も今回はたくさん計画され、 2010 年の NPT 再検討会議の時とはずいぶん違って活動範囲も拡がりました。 フレンド高校では校長先生はじめ核兵器の廃絶を真剣に考えておられ、 ここではトルーマン大統領の孫、 ダニエル・クリフトンさんも核廃絶に真剣に取り組んでいると語ってくれました。 団員の中の被爆者の体験談を中心に、 ニューヨークの次世代の子供達へ核兵器の非人道性を広めることが出来ました。 また今回は県庁の職員 3 名の参加により Nagasaki in New York の企画が Japan Society で実現しました。 これも大きな成果でした。 ニューヨーク市民のお一人からは、 最近の日本の原発再開への疑問も表明されました。 ニューヨーク最後の夜の音楽会では、 ニューヨーク市民との交流は最高潮に達して、 忘れられない記憶となりました。 ヒマワリの皆さんの初めてのニューヨーク公演が光りました。

〈NPT 会議の報告〉
ここ数年、 核兵器の非人道性の認識が世界的に高まってきたことを背景に、 次の核軍縮と核廃絶へのステップを明示した最終文書の採択の期待を担う会議であったはずですが、 結果は残念ながら、 その採択は見送られました。
総会冒頭、 各国代表の先頭を切った日本の岸田外務大臣の演説は、 自らの出身が広島であることを強調して核廃絶への意気込みを語りました。 世界の政治指導者に対して被爆地広島・長崎を訪問し、 原爆の実相に触れて欲しいと要望しました。 核廃絶への道筋については、 日本は世界の安全保障の安定化を実現しながら 「ステップ・バイ・ステップ」 で取り組むことを表明しました。
次の日からの個別会議では、 中国、 韓国から日本代表に対する猛烈な反発がありました。 歴史的な日本の加害を棚に上げて、 原爆では被害者としての立場を強調するな、 という訳です。 原爆が中国や朝鮮を日本の支配から開放してくれたと思っている人がまだ多いと言うことです。 NPT 会議は過去の戦争責任を論ずる場ではないにもかかわらず、 すぐこのような過去の歴史の精算問題が頭をもたげてくるので、 東アジアの現状の安全保障環境は日本にとってむずかしいことを見せつけられました。
岸田外務大臣の次に登壇した米国のケリー国務長官は、 核兵器の非人道性を公式に認めると表明した格調の高いものでありましたが、 核政策は 「ステップ・バイ・ステップ」 あるいは 「ブロック・バイ・ブロック」 の積み上げ方式を強調するものであり、 米国として新たな核軍縮と廃絶への取り組みの具体的提案は、 残念ながら、 ありませんでした。 (同じ日に日米の外務・防衛大臣 (長官) 4 者会談が行われており、 この日米の核政策はすり合わされていたと言えるでしょう)。
その後 NPT 会議は中東において核兵器を含む大量破壊兵器のない地帯を実現するための会議開催を来年 3 月に求めるエジプトなどの提案が議論されましたが、 現在の中東情勢を反映して、 混迷を深め、 核兵器国と目されるイスラエルを慮った米国とカナダの反対で、 結局、 女性議長のフエルーキ (アルジェリア代表) は、 最終文書の採択を断念しました。 最終文書案では日本の提案は、 被爆地広島・長崎の都市名がない形で残っていたので、 日本政府の面目もかろうじて保たれたのですが、 結局採択は実現しなかったのです。 しかし非人道性をテコにして、 今後国連総会 (9 月に予定) の場で、 核兵器の禁止を目指す法的枠組み作りの話し合いが始まり、 しかるべき国連の委員会が設置される素地が形成されたという評価は出来るでしょう ( 8 月 26 日から広島市で開催された国連核軍縮会議で、 フェルーキ議長がこの点を強調していました)。

〈核廃絶の世界の今後の動きは?〉
2009 年のオバマ大統領のプラハ演説で一挙に盛り上がった核廃絶への期待は、 その後の無策と、 クリミヤ併合ではプーチン大統領が核兵器の準備をしていたと公言し、 また中東の対イスラム国 (IS) 戦争が深刻化していることなどを背景に、 急速にしぼんだかに見えます。
しかしながら、 過去 3 回連続開催された核兵器の非人道性に関する国際会議は 160 ヶ国をこえる出席があり、 非人道性のコンセンサスは確立してきていることは間違いありません。 特に核兵器国の米国、 英国の代表も昨年 12 月のウイーン会議では、 はじめて出席しており、 核兵器の非人道性を公式に認めました (私も政府代表の一人としてその場にいて感動しました)。 ケリー国務長官の NPT の演説もあらためてその認識を強調したものでした。 核廃絶の動きはこのようにゆっくりとはしていますが、 少しずつ進展しつつあることは間違いありません。
今後の核廃絶という最終目標に対する世界の取り組みはやはり揺るぎはないと思います。 しかし紆余曲折することは間違いないでしょう。 そのなかで核兵器の製造・威嚇・使用を何らかの形で法的に制限することを話し合う国際的な枠組みについての議論を集中的に進める方向に行くであろうと思います。 これが今回の NPT 再検討会議に出席した私の結論でありました。

〈まとめ〉
20 名の地球市民集会代表団の各メンバーの報告でも触れられると思いますが、 ニューヨーク市民の NPT 会議に対する全体的な関心は弱く、 メジャーなメデイアの関心も薄かったと思います。 米国市民の世論を核廃絶に向けることは容易ではないとも感じられましたが、 われわれ被爆地長崎の市民社会は、 粘り強く国際的な世論を核廃絶に向けるべく努力を継続することが大切だと強く感じられました。 被爆者の証言の継承がますます重要となります。 これまで政府間の安全保障という政治的討議としてしか取り上げられない NPT 再検討会議の場に、 はじめて、 しかも大きく核の非人道性の問題が討議され始めたことは、 今後の核廃絶に向けた運動が ICAN のような市民社会の結束がより大きくなっていくことを示していると強く感じます。 皆さんこれからも団結してがんばりましょう。

 NPT再検討会議 参加報告 ~核廃絶の行方~
          団長 朝長万左男