核兵器廃絶と多国間交渉
核兵器廃絶へ向けた世界の動きと日本の役割
被爆国・日本から核廃絶の声を広げていこう。

 ジャクリーン・カバッソー氏による報告

第三分科会「核兵器廃絶と多国間交渉」では、大阪大学〔大学院〕の黒澤満教授、および米国の西部諸州法律財団の事務局長であるジャクリーン・カバッソーがコーディネータを務めました。ここでは三つの主要なテーマが浮き彫りになりました。それらは、核の二重基準が本質的に持続不可能であること、民間による原子力〔利用〕の問題、そして人類および環境の安全確保を問い直すにあたり市民社会の果たす不可欠な役割です。
  カバッソー氏は基調講演で、米国がその「国家安全保障」政策における核兵器の役割を拡大させるのと同時に、同じ政策によって現実のあるいは仮想的な〔核〕拡散の恐れに基づいて北朝鮮およびイランを脅していることに言及しました。同氏は、核不拡散条約は難問題であると発言しました。それは同条約が、その第六条に謳われているとおり、当初から核兵器を保有していた五カ国に対して貯蔵核兵器廃絶の交渉実施を求める唯一の法的拘束力を持つ手段である一方で、第四条に謳われているとおり核技術の平和的利用推進がその交渉の中心的要素となることを前提としているためです。この技術とは核兵器保有国が核兵器の製造に使用するのと全く同じ技術にほかなりません。そして私たちは現在、この込み入った関係のつくりだす解決困難な問題をはっきりと目のあたりにしているのです。核不拡散条約の実現可能性が危険にさらされている今、包括的な核兵器禁止条約による核不拡散条約の代替が可能となるまでは、私たちは第六条遵守の努力を強化し、かつ第四条を受け入れて行かなければなりません。また同時に、世界を原子力から引き離すための手段の模索も行わなければなりません。同氏は、核戦争の恐怖を体験した唯一の人々として、日本人には果たすべき独特の役割があると強く主張しました。被爆者が次世代の人間に対して「二度と繰り返してはならない」という基本的な教えを伝えることの重要性は、どれほど強調してもし過ぎることはありません。彼らの声を世界中に広げて行くために、私たちにできることはすべて行わなくてはなりません。 カバッソー氏は、NGO、また市民社会のメンバーとしての私たちの共通の懸念は、国境や文化、人種、そして宗教の違いを超えたものであると結論づけました。私たちには特定の国の国家の安全よりも、人類全体の安全のほうがはるかに重要です。短期の政治的決着が可能と考えられることのみではなく、私たちの真に望むことがらを明確に発言し、要求して行くことが私たちの責務です。共通の目標のため、共に努力し、互いに支援しあいながら、各々の自国において創造的かつ非暴力的な手段によって核廃絶に向けた政治的意志を作りあげるという私たちの主要責任を果たすにあたり、より効果的な手法を見つけて行かなければなりません。
  一人目のパネリスト、米国の核時代平和財団会長、デビッド・クリーガー氏は、核不拡散条約に参加する核兵器保有国による核廃絶に向けた多国間交渉の努力の失敗が核兵器の拡散につながり、更なる拡散の可能性をもたらす結果となったと主張しました。クリーガー博士は、北朝鮮の核実験には大きな警鐘を鳴らすべきであると指摘しました。しかし博士は、核兵器保有国は自らの義務を果たすかわりに北朝鮮を非難しているのであり、問題の根源ではなく、そこから発生する症状にのみ目を向けているとも述べました。核保有国による大量破壊兵器の継続的な保有と、それら兵器への依存こそが問題の根源なのです。
  以下がクリーガー博士の提起した難問です。「核兵器保有国の政府が、核兵器廃絶達成のための信頼に基づく交渉を行う義務を果たさず、道義にはずれた違法かつ危険な行動をとるとき、世界はどうすればよいのか」。博士は、この問題に対する簡単な解答はないものの、いったん問題を目にしたからには努力を続けるほか選択肢はないと述べました。人類の未来を政治的、軍事的主導者の手に委ねることはできません。その到来を待ち続けた主導者には私たち自身がならねばならず、核のない未来という大義を人類に普及させて行かなければなりません。
  二人目のパネリストは、英国のアクロニム研究所の所長であるレベッカ・ジョンソン氏です。同氏は今日の世界においては、核保有国と非保有国の異なる権利と義務に基づく不拡散の概念は、本質的に不安定なものであると議論しました。同氏は、同氏が軍縮への「統合的な」アプローチと呼ぶものを基盤とする持続的な不拡散の概念を紹介しました。この「統合的」アプローチとはすなわち、1)より効果的な監視活動および規則の執行によって、核不拡散体制の国際法と国際基準を強化する、2)既存の核兵器保有者、および核拡散に意欲的な者によって、新たな核兵器が開発、配備されないことを確保する、3)核兵器の使用を完全に廃止し、大量破壊兵器の使用の排斥と禁止をより深く根づかせる、4)核兵器の保有者各々に対し、核不拡散条約およびその関連条約や合意に定められた義務をどのように遂行するかについての首尾一貫した行動計画の作成を要求する、5)兵器使用目的、およびもんじゅや六ヶ所村を含む民間原子炉における使用目的でのプルトニウムと高濃縮ウランの製造を禁止する、というものです。
  次のパネリストは、広島平和研究所の所長である浅井基文氏でした。浅井氏は多国間交渉に進展が見られない点を繰り返し指摘し、その問題の中心にあるのは米国の二重基準であると強調しました。米国は、核不拡散条約の存在にもかかわらずイスラエル、インド、パキスタンには核兵器の保有を許可する一方、同国が「ならずもの国家」あるいは敵国とみなした国に対してはこれを許可しませんでした。浅井氏は、米国の政策が北朝鮮を核実験の実施に追い込んだとして強く批判しました。同氏は核実験を非難しつつも、世界は米国の核政策に対し強い態度で臨まなければならないと強調しています。同氏はまた、北朝鮮に多国間交渉に復帰するよう呼びかけ、また国際社会に対しては、米国と北朝鮮の直接対話を実現させるように要求することを強く訴えました。核不拡散条約に関しては、2010年の運用検討会議に向けた出発点として、2000年の合意に立ち戻るよう、要求しました。
  また浅井氏は、「究極的核廃絶」という日本の核政策は偽善的かつ自己欺瞞的であると指摘しました。同氏は、日本は一方で核兵器を「究極的には完全に廃絶」させることに取り組むとしながら、他方では米国の核の傘に依存しており、このことは日本の取組みが真剣なものではないことを示しているとしています。この偽善的政策に対しては草の根レベルで意義を申し立てなければならず、日本はその自己欺瞞を捨てなければなりません。
  最後のパネリストは、朝日新聞論説委員である吉田文彦氏ですが、同氏は「なぜ非核保有国は核不拡散条約を信用できないのか」という問題を提起しました。同氏は核の二重基準の問題を強調し、中東における石油と安全保障の問題を例に引きながら、米国のイスラエル、イラン、そしてイラクとの核協力の歴史について説明しました。さらに同氏は、独立後のインドは非同盟民主主義国として、核不拡散協定の調印以前に、米国より核開発支援を受けたと報告しました。東側諸国も核の二重基準に関与してきました。ソ連と中国はともに北朝鮮における核開発を保障措置なしで支援してきました。同氏は、一言で言えば核不拡散条約は核兵器保有国によってひどく歪められてきた、と述べました。
 吉田氏は、私たちは核不拡散条約そのものを批判する傾向にあるが、問題は条約をどのように適用するかにある、との結論を提示しました。不拡散は、主要国によって歪められてきました。私たちは核不拡散条約を維持しなければなりませんが、これを普遍的に適用して行かなければなりません。同氏はまた、原子力の利用については当初から明確な分類がなされておらず、もし将来的に原子力利用を増やして行こうとするならば徹底的な議論を行う必要があると述べました。プルトニウムと高濃縮ウランが議論の焦点となる可能性がありますが、〔それだけではなく〕原子力についてのより幅広い議論を行って行く必要があるのです。
  ご来場の皆様からは多くのコメントおよび質問がよせられ、その結果非常に活発な議論が行われました。コーディネーターからご参加いただいた皆様に感謝申し上げたいと思います。


第3回大会のキャラクター





コーディネーター
 大阪大学大学院教授
 黒澤 満
 アメリカ・西部諸州法律財団事務局長
 ジャクリ一ン・カバッソー
スピーカー
 アメリカ・核時代平和財団
 デビッド・クリーガー
 イギリス・アクロニム研究所所長
 レベッカ・ジョンソン
 広島平和研究所所長
 ジョン・バローズ
 長崎大学大学院教授
 浅井 基文
 朝日新聞論説委員
 吉田 文彦




要約
 核兵器廃絶のための、長崎、広島、NGOの役割について考えた分科会。
 日本は唯−の被爆国として、「核の使用を二度と許してはならない」と強く主張する必要があるとの意見や、核保有国による核兵器廃絶に向けた多国司交三歩が進まないため核拡散が進んでいるとの指摘がありました。

 

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