朝長委員長が外務省を訪れ、石原宏高外務大臣政務官に対し、集会の集大成である「長崎アピール2013」を渡し、アピールの趣旨を踏まえ、核兵器の全面禁止や廃絶に向かう交渉開始、非核兵器地帯設立など、核兵器廃絶に向けた具体的な行動を訴えるとともに、核兵器の役割低減への一層の努力を要請しました。
日時:2013 年12 月9 日(月)16:30
場所: 外務省応接室
1986年以降、5万発以上の核兵器が廃絶されたが、未だ1万7千発の核兵器が存在する。これらの大量破壊兵器の一部でも地球上の文明と生命に終止符を打つことができる。今日、9か国が核兵器を保有し、5か国が自国の領土に米国の核兵器を配備している。また多くの国が自国の安全を核保有国の核の傘に依存している。核兵器廃絶のために生涯を捧げ、この世を去った被爆者は数知れない。
核兵器の爆発による絶滅の危険が、偶発的あるいは計算違いにせよ、意図的にせよ、人類の未来に暗い影を投げている。核兵器のない世界に向けた核保有国の怠慢が、核不拡散条約(NPT)の正当性を低下させている。核軍縮への「明確な」約束の不履行が、不拡散体制の信頼を低下させた。そしてその破綻すら招きかねない。
2011年3月11日、東日本大震災により起こった東京電力福島第一原子力発電所の大量かつ継続的な放射能の放出は、人間が核技術を制御できないことをまたも示した。私たちは、福島の人々の健康や生活の不安と苦悩について知り、核兵器であれ原子力であれ、放射能の危険性を改めて認識した。福島の事故と、長崎・広島の原爆被爆の経験は、核の惨事の影響が、時間的にも空間的にも制御できないことを示した。
このような困難な問題の一方で、明るい希望もある。被爆者が何十年も訴えてきたことであるが、近年、核兵器使用の人道的影響が改めて強調されている。1996年、国際司法裁判所は核兵器の破壊的影響に鑑み、核兵器の使用または威嚇は一般的に国際法に違反すると結論づけた。2010年NPT再検討会議の最終文書は、「核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道的結果をもたらすことへの深い懸念」と「すべての加盟国がいかなる時も、国際人道法を含め、適用可能な国際法を遵守する必要性」を再確認した。
また国際赤十字・赤新月社代表者会議が採択した2011年11月の決議は、核兵器の非人道性を根拠に、「国際条約を通じ核兵器の使用禁止と廃絶のための交渉を完結する」必要性を明確に訴えた。2010年以降、核兵器の人道的影響が国連総会と2015年NPT再検討会議に向けた準備委員会で議論された。さらには、本年3月、ノルウェー政府の主催により「核兵器の人道的影響に関する国際会議」が開催された。2014年2月にはオスロ会議の後継会議がメキシコ政府の主催で開催される。私たちはこのような流れを歓迎するとともに、この流れが核兵器の禁止と廃絶を達成するための世界的な努力に貢献することを期待する。
2010年NPT再検討会議は、加盟国が核兵器禁止条約に向けた交渉を含む国連事務総長の核軍縮5項目に留意し、「核兵器のない世界を実現し維持するために必要な枠組みを確立するために特別の努力をする必要性」について合意した。本年5月、6月、8月には核兵器のない世界の実現と維持のための多国間交渉を前進させるべき諸提案を作成する目的をもって、国連公開作業部会(OEWG)がジュネーブで初めて開かれた。政府代表と市民社会が対等に議論できる新しい状況が生まれたのである。このことは、軍縮会議(CD)が17年の停滞から脱し、非公式の核軍縮作業部会を設置することを促した。また、本年9月には国連総会において初めての核軍縮に関するハイレベル会合が開催された。その結果、9月26日を「国際核兵器廃絶デー」に制定し、核軍縮に関するハイレベル会議の2018年までの開催を求めた非同盟運動の提案が生み出された。私たちはこのような努力が継続されるよう希望する。
私たちは、核兵器は無差別大量破壊兵器であり、その使用はいかなる理由があっても許されない非人道兵器であることを改めて強調する。核抑止が自国の安全を保証するという考えは幻想である。核兵器が使用されると、人的被害は国境と世代を越えて広がり、地球規模での環境と生態系の破壊を招くであろう。限定的な核戦争でも地球規模の「核の飢餓」を起こし、何十億人もの死につながるであろう。
このようなことから、私たちは次のような具体的な行動を訴える。
1 核兵器の全面禁止と廃絶に向かう外交交渉が速やかに開始されるべきであり、2014年に交渉を始めるよう求める。そしてこれらの交渉が2015年NPT再検討会議、および、2018年までの開催が提案されているハイレベル会議において、支持されることを求める。
2 核兵器国、とりわけ最大の核戦力を有する米国とロシアは、二国間あるいは一国的な措置として、戦略・非戦略、配備・非配備を問わず、あらゆる種類の保有核兵器の大幅削減に取り組むべきである。同時に、すべての核保有国は核兵器システムの開発と近代化を中止すべきである。そして、それらに使われている莫大な資金や科学的資源を社会的、経済的ニーズに再配分すべきである。
3 すべての国家は、あらゆる軍事・外交における核兵器の役割と重要性をいっそう低減しなければならない。核兵器保有国と保有国の「核の傘」に依存する国々は特別の責務を負う。非保有国は国内法の制定や核兵器産業からの投資の撤退など、核兵器を非合法化し、それを「忌むべきもの」にするための措置をとることができる。
4 世界の政府と市民社会は、「広島・長崎への原爆投下は、甚大かつ無差別な被害をもたらした故に、戦争の行為を規定する最も基本的な法的原則に違反する」との1963年12月8日の下田裁判東京地裁判決の50周年が近づいているのを機に、この判決を広く伝えなければならない。
5 核廃絶のためのキャンペーンー平和首長会議、核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)、グローバルネットワーク・アボリション2000、核兵器廃絶国際キャンペーン(I CAN)、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)などへの市民の一層の参加を奨励しよう。とりわけ世界の若者の参加を歓迎する。
6 非核兵器地帯は安全保障における核兵器の役割を低減し、地域的に核兵器が使用される危険を減らす。また、拡大核抑止への依存に替わる実現可能でより安全な選択肢を提供する。私たちは、中東、北東アジア、北極圏などの非核兵器地帯設立への一層の努力を求める。
7 福島第一原発事故は福島県民に計り知れない被害と苦しみをもたらし続けている。この事故の責任の問題をおろそかにすべきではない。市民社会は、避難住民への支援や被災地域の再生などの取り組みを支援しなければならない。「フクシマ」を風化させてはならない。原発事故関連の情報は、隠すことなく公開されるべきである。放射線に被ばくした人たちには長期的な医療支援が保証されるべきである。
8 福島の事故は、原子力に依存し続けることができないことを私たちに教えた。被爆者の体験は、1982年、国連で山口仙二さんが訴えたような「ノー・モア・ヒロシマ/ノー・モア・ナガサキ/ノー・モア・ヒバクシヤ/ノー・モア・ウオー」という認識をもたらした。福島の事故は「ノー・モア・フクシマ」と叫ぶことを要求している。
唯一の戦争被爆国でありながら米国の「核の傘」に依存する日本は、核兵器のない世界の実現を先導すべき特別な責務を有している。
1 本年10月21日、国連総会第一委員会において日本政府が125か国による「核兵器の人道的結末に関する共同声明」に賛同したことを、私たちは歓迎する。しかしながら、本年10月3日の日米安全保障共同声明を残念に思う。この声明では、核兵器、通常兵器を含むあらゆる範囲の米国の軍事力により日本の安全を守るという同盟関係を再確認した。「いかなる状況下においても」核兵器が使用されないことに人類の生存がかかっていると明確に述べた125か国共同声明に沿って、日本政府は「核の傘」依存政策の変更に進むべきである。
2 私たちは、日本政府が北東アジア非核兵器地帯設立に向かうことこそが核兵器に依存しない安全保障につながる近道であると確信する。532に及ぶ日本の自治体首長も同じ考えを表明している。2010年7月22日の日韓の超党派の国会議員83人も同様の考えを表明した。本年9月には、モンゴル大統領が国連総会において、北東アジア非核兵器地帯の創設を積極的に支援する意向を初めて表明した。日本政府が韓国政府と協議し、地帯実現に向けた共同の取り組みを開始することを求める。
3 日本政府が、核兵器の廃絶のために不可欠な手段として、核兵器の被壊的、非人道的な結果について世界に伝えるよう求める。2014年4月に広島で開かれる軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)外相会合の場を活用するとともに、2016年に日本で開催される主要国首脳会議に参加する政治指導者と政府関係者が被爆地広島・長 崎を訪問するよう働きかけるべきである。
4 日本政府が、福島の放射能危機を安定化させ、封じ込め、監視する上で、独立した国際的な専門家の協力を求め、受け入れるよう要請する。
第5回核兵器廃絶一地球市民集会ナガサキに参加した私たちは、米国が広島・長崎に投下した原爆の被爆者の「せめて生きている間に、核兵器廃絶を実現してほしい」という切実な声を再び聞いた。また私たちは、核兵器のない世界を達成し維持する責任を受け止めようとする若者たちの声に希望を持って耳を傾けた。私たちは3日間の感動的な交流と議論を通じて相互理解と連帯の絆を深めた。
核兵器のない世界の実現のための努力を一層強めることを誓うとともに、「ナガサキを最後の被爆地に」と改めて世界の人々に訴える。
2013年11月4日
第5回 核兵器廃絶一地球市民集会ナガサキ