2006長崎アピール
 被爆60年の2005年、5月にニューヨークで開かれたNPT再検討会議は、実りなく終わった。節目の年への期待が強かっただけに、被爆地における失望は大きかった。また2006年10月9日の北朝鮮による核実験は、これまで核廃絶を訴えてきた世界の人々の心を踏みにじった。
しかし、私たち地球市民は決してあきらめはしない。

会議の直後から提起された具体的事項が、今後への力強い展望を示している。「核兵器の非合法化を目指せ」としたハンス・ブリックス委員長による「大量破壊兵器委員会」の60項目勧告、アジア大陸の中央部に21世紀初めて実現した新しい創意あふれる中央アジア非核兵器地帯、増え続けるモンゴルの非核地帯地位への支持、そして、平和市長会議や核軍縮議員ネットワークなどを通じて強まっている市長や議員たちの活動、中堅国家構想(MPI)による同志国家とNGOが、核軍縮義務を履行させるために開催した「第6条」フォーラム、英国で始まったトライデント核兵器システム更新阻止の力強い市民運動―これらは心ある政府や国連、NGOが連帯し、挫折を糧にして敢然と立ち上がっている何よりの証左である。

 一方、被爆者は今なお放射線による後障害に苦しめられながらも、核兵器廃絶運動の先頭に立っている。昨年度のノーベル平和賞受賞は惜しくも逸したが、選考委員会は彼らの行動に対して最大級の讃辞を贈った。被爆の実相を普及させるために、世界の各地で原爆展や被爆者の証言活動が、年を追うごとに活発化してきている。中でも、米国の核爆発実験場があるネバダの博物館において、今年、原爆展が開催された意義は大きい。核兵器の開発を科学の勝利としてのみ捉えがちな人々に対して、きのこ雲の下で繰り広げられた地獄の惨状を知るのに、多くの言葉は要らない。

 今年は、核兵器の使用と威嚇は一般的に国際法に違反するとし、すべての国に核兵器の完全軍縮のための交渉を誠実に遂行し完結させる義務があるとした、歴史的な国際司法裁判所(ICJ)勧告から10周年である。

被爆61年目のこの年を、私たちは新たな出発点と位置づけ、第3回地球市民集会ナガサキに集い、3日間の熱のこもった討議を終えた。開会集会の日、ニュージーランド国民から長崎市民への友情の証として平和の彫刻「平和のマント」が贈られた。集会では、高校生、及び大学生など次世代への持続的で広がりのある平和活動を知って強く励まされた。

この活動と議論の成果を踏まえ、私たちは地球市民の名において、次のことを全世界の人々に呼びかける。
 
1. 核兵器はもっとも野蛮で非人道的、かつ卑劣な兵器である。すべての国の政府に対して、私たちはこのことをあらためて強く訴える。いかなる国も、核兵器によって安全保障を求めるという考えを捨てるべきである。

2. 私たちは、北朝鮮による核実験の暴挙を強く非難する。これに対するいかなる力の行使にも反対し、6カ国協議、及び2カ国協議への復帰を基礎とした平和的かつ外交的解決を求める。

3. 核兵器廃絶のために、被爆国日本が果たすべき役割と責任は極めて大きい。私たちは、日本政府にたいして非核三原則の厳守を再確認し、それを法制化するよう求める。私たちは、米国の核の傘に依存する政策から一日も早く脱却し、核兵器廃絶のための国際条約への支持を要求している日本の市民を支援する。

4. 北朝鮮の核実験が行われた今だからこそ、北東アジア非核兵器地帯の設立を求める。日本においては、非核宣言自治体を支援し、この目的に向かって市民と自治体が協力するよう訴える。

5. 核拡散が進む中で、兵器に使用可能な核分裂物質の管理が世界的な関心事となっている。日本政府はこの懸念を踏まえ、プルトニウム生産を含む核燃料サイクルのあり方を再考すべきである。

6. 「保有核兵器を完全廃棄する明確な約束」をはじめとする2000年NPT再検討会議における合意の大部分は現在も有効である。合意の中には安全保障政策における核兵器の役割の低下、核兵器の高度警戒態勢の解除、核実験禁止条約(CTBT)の批准、核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉、そして核軍縮の不可逆性の原則などがある。私たちは、すべての政府に対してこれらの誓約の履行を要求する。これらの約束を再確認することが、2010年NPT再検討会議の出発点となるべきである。

7. ある国の核計画は受け入れられるが、他の国の核計画は受け入れられないという二重基準は許されない。私たちは、米国とインドの間の新しい核取り引きに反対する。米印両政府のみならず、原子力供給国グループ(NSG)参加国政府すべてに、私たちはこのことを訴える。

8. 私たちは、宇宙の兵器化(weaponization of space)につながるものを含むミサイル防衛計画に反対する。ミサイル防衛の推進は、地域のみならず世界における核を含む軍備競争を助長している。


9. 私たちは「大量破壊兵器委員会」の勧告の実施を要求する。各国政府に、議会に、自治体に、そして市民社会に勧告の内容を広めることを訴える。米ロがさらに大幅な核兵器削減を加速しなければならないのはもちろんだが、すべての核保有国が核兵器への依存を大幅に削減するべきである。すべての核兵器国は、新しい核兵器、あるいは代替核兵器を開発しないことを誓約すべきである。

10.私たちは、議会や自治体への働きかけの強化を呼びかけるとともに、世界中で幅広い民衆運動を組織することを呼びかける。平和市長会議の緊急行動(2020ビジョン)、核兵器廃絶のための地球ネットワーク「アボリッション2000」、核戦争防止国際医師会議の核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)など、世界規模で核兵器廃絶を促進する運動が起こっている。

11.私たちは、トライデント核兵器システムの更新を阻止し、ヨーロッパの非核化を促進するために立ち上がった英国市民を中心とする運動と抵抗に賛同し支援する。また、私たちは、信頼性代替弾頭(RRW)開発などの核兵器の無期限保有やグローバル・ストライク(地球規模の攻撃)能力の開発をもくろむ米政策に反対する米国市民の運動を激励し支援する。さらに、私たちは、新しい核弾頭やミサイルの開発阻止に取り組むフランスの市民運動を激励し支援する。

12.非核兵器地帯条約に加盟している国の数は、すべての国の数の3分の2にも達している。私たちは、これらの加盟国を激励し支援するとともに、核軍縮と不拡散を推進するためにさらに積極的な役割を果たすよう訴える。私たちは、一国非核兵器地帯や他の地域的非核兵器地帯の設立を奨励するとともに、とりわけ中東諸国政府が非核兵器・非大量破壊兵器地帯の早期・無条件の設立について交渉を開始するよう求める。
 
13.平和教育および平和学習を推進するため、私たちは「軍縮・不拡散教育に関する国連研究」の勧告を取り入れた公教育システムの確立を訴える。その場合、青少年、大学生、一般市民、及び政策決定者など社会のさまざまな対象層に適合した多様な教育方法や内容を用いる必要がある。

14.私たちは、核兵器がもたらす危険を分かりやすく劇的に描き出し、市民啓発に役立てるよう、世界中のメディアや芸術家、また娯楽産業の代表たちに訴える。

15.核兵器が町を、国を、そして文明を破壊する前に、私たちは被爆者と声を合わせ世界中の市民とともに核兵器廃絶を求めていこう。

2006年10月23日
第3回 核兵器廃絶―地球市民集会ナガサキ
 

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