分科会 2
分科会2 核兵器禁止条約へ 〜目標を明記して段階的アプローチを〜

コーディネーター 山田 寿則

コーディネーター アラン・ウェア

 分科会2は、「核兵器禁止条約へ―目標を明記して段階的アプローチを―」をテーマに、「核兵器のない世界」が必要としている国際条約とはどのようなものなのか、また、その内容、意義、成立への道すじ、予想される困難などについて話し合うことを目的として開催された。
 コーディネーターを国際平和ビューローのアラン・ウェア氏(ニュージーランド)と山田寿則が務め、パネリストとしては、アメリカから核時代平和財団のデビッド・クリーガー氏、三重大学教授の児玉克哉氏、インドからデリー大学教授のアチン・バナイク氏、そして核戦争防止国際医師会議の長崎県支部長として朝長万左男氏が参加した。
 分科会の流れは、まず各パネリストが発言を行ない、つぎに、この発言を受けて、会場との質疑応答を行なった。最後に各パネリスト、コーディネーターからまとめの発言があった。
 まず、各パネリストに先立ち、山田が核兵器禁止条約とは何かについて解説的に発言を行った。山田からは、
@核兵器禁止条約による核廃絶を行なうという方法論の説明、
Aその中で主張されている「モデル核兵器禁止条約」とは何かの説明、
Bこのモデル条約を実現していく上での課題についての説明があった。
とくに、最後の課題については、(a)核抑止論からの決別の必要性、(b)原子力の平和利用の考え方を議論する必要性、(c)ヒバクシャを救済する規定の必要性が指摘された。

パネリスト デビッド・クリーガー

 つぎに、クリーガー氏の発言では、核兵器禁止条約が備えるべき要件として4つの点が指摘された。
@廃絶に向けて段階的措置を予定すること(段階制)、
Aその措置を検証する仕組みがあること(検証可能性)、
Bとった措置が逆戻りしないこと(不可逆性)、
C措置の透明性が確保されること(透明性)、
この4点である。だが、この4つの要件は条約交渉を進める中で解消できるものであって、より重要なことはこの条約を実現するとの政治的意志の形成にあるとして、この点で市民社会の役割の重要性が強調された。

パネリスト 児玉 克哉

 続いて、児玉氏からは運動をどう形成していくかという観点から、ヒロシマ・ナガサキプロセスの提唱がなされた。
これは、@核兵器の使用・威嚇禁止条約をつくり、 A核兵器の開発禁止条約を成立させ、Bこれを核兵器廃絶条約へと結び付けていくプロセスである。
また、これと同時並行で地球的規模での非核兵器地帯条約を形成し、これらを組み合わせることで核兵器の廃絶を実現しようという提案である。児玉氏からは、核兵器国による合意の形成を待つのではなく、日本などの非核兵器国から核兵器禁止の意思の形成を始めることの重要性が指摘された。

パネリスト アチン・バナイク

  さらに、バナイク氏からは、核廃絶を目指して提唱されたインドのガンジープラン(1988年に当時のラジブ・ガンジー首相が提唱)は、現在では形骸化しておりインドの核政策を糊塗するものになっているとの指摘があった。また、具体的にCTBTやFMCT、先制不使用政策に対するインドの取組みが紹介された。さらに、中東非大量破壊兵器地帯を実現する重要性についても言及があった。
 最終的に、印パのカシミール地域の非核兵器地帯化、バンコク条約(東南アジア非核兵器地帯条約)のバングラデシュへの拡大、ネパールの1国非核の地位の実現を推進すべきとの提案があった。

パネリスト 朝長 万左男

最後に、朝長氏からは、専門家の言う核廃絶のプロセスはなぜかくも長いのかとの問いかけがあり、その上でモデル核兵器禁止条約は頼もしいとの期待が表明された。また核の先制不使用の宣言はスタートとして大きな意味をもつとの指摘があった。さらに、市民の力による人類的意思の確立が必要であるとの指摘があった。
 会場からの質問を受けての応答およびパネリスト間での討論においては、主に2つの事柄が議論の焦点となった。1つは、核兵器禁止条約の実現可能性であり、もう1つは市民の力をいかに結集するかという問題である。
 まず、核兵器禁止条約の実現可能性に関しては、コーディネーターから核兵器の使用の禁止を優先すべきか、核兵器の数量の削減を優先すべきかとの問題を提起し議論を進めた。これについては、すでに国際司法裁判所の核兵器勧告的意見(1996年)に明らかなように、核使用の違法性は確立しているとの見解が提示された(クリーガー氏)。また、その違法性を確認することが重要であり、その確認を非核兵国側から行なおうというのがヒロシマ・ナガサキプロセスの提唱であるとの指摘がなされた(児玉氏)。さらに、いずれにしても、できる措置をすべてとることが必要であり、まず核兵器禁止条約のための準備作業を開始すべきことが重要であるとの指摘もなされた(アラン・ウェア氏)。
 ついで、市民の力の結集という論点については、時間の制約から各パネリストのまとめの発言に含めて行なっていただいた。これに関しては、核兵器問題に関する教育の必要性が指摘され、特にこのことが日米間での相互理解に資するとされた。市民社会のネットワークの拡大の必要性も指摘された。(以上クリーガー氏)。また、ヒバクシャの役割の重要性はなお大きいとの指摘もあった(朝長氏)。さらに、従来以上に市民社会からの核廃絶に向けての積極的で建設的な対応策の提示が必要との指摘もあった(児玉氏)。
 本分科会では、核兵器禁止条約の実現に向けて多様な問題が提起され、とくに運動につなげるという実際的観点からの議論が行なわれた。「核兵器のない世界」が遠い夢ではなく、具体的なプランとして「モデル核兵器禁止条約」が提示され、これを素材に具体的な議論がなされた点に、大きな意義があったといえる。今後の核兵器禁止条約に対する市民的関心の高まりに期待したい。

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