基調報告
核兵器廃絶地球市民集会長崎集会実行委員会委員長
土山 秀夫
本日ここに「第3回核兵器廃絶―地球市民集会ナガサキ」を開催いたします。海外ならびに国内のNGOの皆さん、そして長崎市民の皆さん、ようこそこの集会に参加してくださいました。実行委員会を代表して心から歓迎申し上げます。
いま世界では、核の拡散問題が最大の関心事となってきています。北朝鮮による核兵器保有の宣言や、核の平和利用を主張して国内でのウラン濃縮実験を譲ろうとしないイランの対応、加えてインド、パキスタン、イスラエルの核不拡散条約(NPT)への不参加などが積み重なってきたためです。
従って核拡散をいかに食い止めるかは、緊急かつきわめて重要な課題であることは疑いありません。しかし最近では余りにこの点のみを強調し、核の拡散防止があたかも最終の目標であるかのような論調が目立ちすぎます。こうした論調の危険性は、ほんらい最終の目標であるはずの、核兵器の廃絶を忘れさせかねない点にあります。
いまさら指摘するまでもなく、私たちは2000年5月の、NPT再検討会議における核兵器保有5カ国を含めた全加盟国による国際的合意を思い起こすべきです。「核兵器国は保有する核兵器の完全廃棄を達成することを明確に約束する」―この合意文書の言葉には、力強い決意のほどが込められています。NPT発足後、30年目にしてようやく達成できた国際公約のはずでした。
ところがブッシュ政権は対テロ戦争の名目の下に、この約束を無視ないし否定する姿勢を強めています。そうした方針を正当化するために、核の拡散防止を前面に打ち出し、その点にもっぱら議論を集中させようとしています。非核兵器国も核の拡散防止に異議のあろうはずはありません。しかしブッシュ政権による核廃絶からの焦点そらしについて、私たちが不信の念を拭えないのはそうした意図が透けて見えるからです。しかも他の核兵器保有4カ国は、米国の政策に異議を唱えようとはせず、その陰に隠れて沈黙を決め込んでいます。また独裁国家の存在を許さず、世界中に民主主義国家を樹立させる、との米国の理想主義が、必ずしも世界の人々から支持されていないのはなぜでしょうか。米国による諸政策、中でも核政策が誰の目にも明らかな二重基準の上に成り立っているからです。
インドはNPTが不平等な条約であるとの理由で、現在まで一貫して加盟を拒否してきました。1998年には核実験を行って事実上の核兵器国となりました。それにもかかわらず、ブッシュ政権はインドを対中国、対イスラムの同盟国とみなし、また有力な原子力市場であるともみなして、今年3月に原子力の平和利用推進協力のための共同声明を発表しました。インドへはNPT加盟を促すことすらしませんでした。同様にイスラエルもまたNPTに加盟しないまま、事実上の核兵器国となっているのに対し、これまで米国は加盟を促す努力を行った節はありません。その一方でNPT加盟国であり、国際原子力機関(IAEA)の追加議定書にも署名していたイランに対しては、まだ核兵器開発に着手したという確たる証拠がないにもかかわらず、ブッシュ政権は厳しく糾弾しようとしています。たとえイラン政府の挑発的態度やテロ支援の可能性があり得るかも知れないとしても、こうした明白な二重基準はとうてい許されるべきではありません。私たちはその速やかな撤回を求めています。
他方、私たちは日本政府の核に関する安全保障政策についても、旧態然とした観念から抜け出せていない点を指摘しなければなりません。米国の核抑止力つまり、"核の傘"に頼りながら核兵器廃絶を外に向かって呼びかける矛盾は、政府がいかに弁明しようともまぎれもない事実のはずです。それなのに日本政府がこうした姿勢を固執し続けるのはなぜなのでしょうか。核の傘からの離脱を論じることによって、その影響が日米安全保障条約へ直接波及するのを懸念し、核あっての日米安全保障という概念を崩される点を恐れるからなのです。
これに対して過去の日本の反核運動は、その点の非は鳴らしても残念ながら明確な対案を示してはきませんでした。1995年に米国のエンディコット教授によって初めて北東アジア非核兵器地帯構想が提案されたのが契機となり、翌96年にはより現実的な構想として「ピースデポ」の梅林宏道氏による「スリー・プラス・スリー案」が示されました。私たちはこの案に基づき、例年のような外務省との話し合いを持ちました。「スリー・プラス・スリー案」の詳細については明日の分科会に譲りますが、この構想は日米安保条約の直接的変更を必要とせず、北朝鮮を含めたこの地域における核の安全保障政策として最適であること、さらに日本の核武装を封じる手段ともなることを主張してきました。
しかし外務省は北東アジア非核兵器地帯の構想が、理想論であることは分かるが現実的ではない、との姿勢に終始しています。あれから10年、現実的だという政府の方針が、果たしてこの地域で何程の成果を挙げたと言えるのでしょうか。北朝鮮の核兵器開発放棄を促すはずの6カ国協議も、現在、完全に暗礁に乗り上げています。そうした時期だからこそ尚更、この構想は決して単なる理想論ではなく、より抜本的な現実の解決策として取り上げられるべき重要な課題だと考えます。私たちは改めて日本政府の英断を求めます。
さて6つの分科会では、それぞれ今日的なテーマについて現状の分析が行われることになっています。被爆地の立場からぜひ望みたいのは、そうした分析の上に立って今後どう現状を打開しようとするのか、その実践的方策を具体的に示して頂くことです。被爆地の私たちはいかなる困難があろうとも、国内外の市民や心ある国々の政府との連帯によって、必ずや核兵器廃絶への地平が開かれることを確信しています。
3日間にわたるこの集会が、旧来の枠に捉われないNGOらしい活発な議論と建設的な提案の場となりますよう、心から皆様のご協力をお願い申し上げまして私の貴重報告といたします。
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