NGO代表スピーチ 4
 こんにちは。韓国から参りましたイ・キホと申します。核兵器をなくすための地球市民集会を開く実行委員会、非常にありがとうございます。感謝しております。
 私にとって、ここでスピーチをさせていただくことは大きな光栄です。私のスピーチを、隣国韓国から来たというだけでなく、東アジアの市民としての立場からお話しできることをうれしく思います。今回は長崎のメッセージを、非核化のために共有する、とても素晴らしい機会ではないかと思います。
 私のお話では二つのことを申し上げたいと思います。まず朝鮮半島の状態はどうなのか。金日成の体制が核廃絶に向けて、どういう現状なのか。それから、私どものノーチラスの方から、非核兵器地帯に対してどういう提言を行っているのかという点についてです。
 今年、2010年は、韓国では特別の意味を持ちます。日本の植民地化から100年が今年経ちますし、また朝鮮戦争から60年経ちます。60年というのは、北東アジアにとってはとても意味があります。日本で言う還暦といいますが、もう一度生まれる、再生という意味があります。非核化、あるいは軍縮において、どういう再生をして、再び生き返ることができるのかということです。また、光州のデモがあって30周年の記念になります。軍事独裁制の下で1982年5月に起こった光州事件があります。それから、平和のための南北サミットが行われてから10周年です。ですから、四つの記念が重なる年が、今年です。
 そこでもう一度、問題提起をしたいと思います。植民地化の時代以降、どういう状況になったのか。今日、私が驚き、また、強い印象を受けたのは、次のようなことです。今朝こちらに来る前に、これは市民の皆さんの会議だろうと思っていたのです。しかし、政府からも外務省の代表、あるいは長崎県、長崎市、県知事、市長の皆さんがお祝いの言葉をおっしゃったということと、政府当局に加えて、いろいろな宗教の指導者の皆さん、それから、学生の皆さんがここに一堂に会しておられることは、一つの問題に対して違った分野の方たちが一体となって検討を加えるということで、私はこの点に強い印象を受けたのです。
 そこで、最初の疑問点です。戦争国家ではなく、平和国家のために、われわれはどのように再構想を行っていくのかということです。朝鮮戦争以降の安全保障とは何なのかということです。国家安全保障というよりは、人間安全保障が言われていますが、一体人々の幸福のために、何をもって安全というのかを考えてみたいのです。軍事独裁政治に対する抵抗運動がありました。一体、民主化とはどういうことなのか。真の民主主義はどういうことなのか。これが3番目の問題提起です。4番目に、南北にとっては10周年記念になることを申し上げました。朝鮮半島がこの地域の平和に何を寄与できるのかということです。この四つのことが新たな2010年という1年にチャレンジとして提示されているわけです。
 それでは、最初に韓国では、2010年は6月15日の平和のための共同宣言から10周年、6月25日は戦争の60周年記念です。後者は戦争を祝って、前者は平和を祈ったものでありました。しかし、戦争を祝う人たちは、もう一つの平和の共同宣言の記念日を祝わないし、戦争を祝わない人は、平和のことを祝う。二つとも祝うという人は、たくさんはいないのが現状です。こういった観点から、多くの韓国の人たちは、強いアメリカ合衆国との軍事同盟、核の傘が、安全保障のために必要だと考えています。
 2006年10月9日に北朝鮮が最初の核実験を行ったすぐ後、韓国の新聞が世論調査を行いました。その中で、韓国は果たして、北朝鮮の核実験に対抗するために、核兵器を開発すべきかどうかという調査をしたのですが、それに対して「はい」と答えた人たちは、どれぐらいだったでしょうか。何%だと思われますか。回答者のうち53%、半分以上がイエス、そうだと答えました。
 こういった反応が出てきたということには、少なくとも二つの理由があったと考えられます。朝鮮戦争の記憶は、政府のイデオロギーによって強く強化されたものですが、それをもって、韓国の人たちに軍事安全保障、核兵器の強いアメリカとの同盟が不可欠だと信じさせてしまったことが一つの理由です。これは朝鮮戦争から学んだことによる韓国の人たちの心理、いわゆる冷戦体制の考え方が、まだ残っているのです。
 もう一つの理由として、人々は忘れたか、知らないかなのですが、長崎や広島の被爆者の人たちのうち、10%以上がコリアンであったということです。つまり、太平洋戦争で強制的に移動させられ、働かなければならなかったコリアンであったということです。長崎の被爆者としての在日のコリアンの人たちの経験が、韓国の人たちにうまく伝わってこなかったということでしょう。
 いずれにせよ、核兵器が本当に自分たちの生活に影響を与える深刻な問題だということについて、韓国の人たちはそれほど注意を払っていないということです。でも、ご心配なさらないように、韓国においても、いかなる形態の暴力よりも平和が重要であるとする人たちの数が、少しずつ増えているということです。冷戦体制の枠組みから徐々に脱却している人たちが、韓国にもいるということです。冷戦体制の考え方というのは、敵国を必要として、いつも国が非常に重要な、決定的なものとして考える。こういった考え方から、脱却しつつある人たちが必要です。
 数年前から、市庁舎の前でいろいろなデモ行動が行われました。ボランティアの若い人たち、平和や幸福を訴える人たちのデモが行われるということが見られてきました。そういった意味で、リベラルで平和を愛する新世代が、韓国にも成長しつつあると言えると思います。こういった韓国の状況の背景をご説明しました。
 それでは、核のチャレンジとして何があるのか。ここの三つの問題に触れたいと思います。まず核兵器です。2番目は拡大核抑止について、そして、最後に核の再処理の問題です。核のチャレンジ、課題ということから考えますと、この三つの問題が韓国にとっては非常に重要な問題となっています。
 それでは、最初に韓国において核兵器の廃絶ということを言う場合に、通常話し合いというのは、大半が北朝鮮の核兵器の開発にかかわるものでした。韓国はアメリカ合衆国、日本、その他の国々と一体となって、15年以上にわたって北朝鮮に何とか核兵器を廃棄するように、飴とムチを組み合わせながら説得しようとしてまいりました。それと同時に、こういった国々さえも、アメリカ合衆国からの拡大核抑止に依存しているわけであって、北朝鮮に対してアメリカが、こういった国々を保護してくれるように依存しているわけです。
 ということは、つまるところ、安全保障を維持するための核兵器の重要性を強化していることになるわけです。そうなりますと、こういった状況の中で、北朝鮮が核兵器を平和裏のうちに断念するとは思えないわけです。こうした膠着状況を打破するために、韓国と日本は、一方では北朝鮮やその他の国々に対して、核兵器を廃絶するようにということを要請しつつ、他方では日本や韓国はアメリカの兵器に、自国の安全保障を守ってもらうために依拠し続けるという状況から、脱皮しなければいけないわけです。
 われわれは、この2カ国が非核兵器地帯を設置することを提案したいと思います。韓国・日本の非核兵器地帯は比較的簡単ではないでしょうか。6カ国協議を見ても、核を持たないのは韓国と日本だけです。韓国と日本の非核兵器地帯ということを言った場合、全く新しいアイデアだという印象を受けます。というのも、韓国と日本で相互に協力をやっていくことは難しいと、一般の人たちは思っておられるでしょう。通常は、アメリカ合衆国を介しての日韓の協力が行われてきました。アメリカ合衆国がイニシアティブを取って、こういった3国間の軍事協力を行ってきたという背景があるからです。  しかし、もう一つ私たちが考えなければいけない点として、こういった非核兵器地帯を作っていくためには、いろいろなチャレンジがあります。民生用の核燃料サイクルと核兵器拡散との関係にかかわるものがその一つです。韓国は単に韓国独自の原子力プログラムを拡大することだけではなく、韓国が原子力発電所を他国へ輸出する主要な輸出国となろうということを考えています。最近、UAE、アラブ首長国連邦に対して韓国の原子力発電所を輸出するという話が、朴大統領との間で進められてきたことが伝えられております。
 しかし、米国と韓国との原子力協定の下で、韓国は濃縮、あるいは再処理設備を運転することを禁止されています。最近は多く政府の官僚やコメンテーターが、この禁止を緩和するように呼びかけていました。特にアメリカ合衆国との現協定が2014年に期限切れとなるからです。ですから、韓国は非核兵器地帯の日本との協定に参画することには、なかなか合意ができないように思います。このような非核兵器地帯ができますと、分離プルトニウムを何トンも備蓄している日本と韓国の間に不平等性があると、その不平等性が恒久化してしまうからです。従って、核燃料サイクルの問題は、協力的な格好でプルトニウムの海とならないように対応していく必要があるでしょう。
 この韓国・日本の非核地帯というのは、考えるのは容易なのですが、あまりこのことを考えてはいません。これまで100年以上の記憶が人々の脳裏にまだ残っている。あるいはナショナリズムの影響でしょう。ですから、こういった考え方は新しいコンセプトに考えられているわけです。これが現実化されますと、それに関連した難しい安全保障の問題、北東アジアの問題も、同時に解決することができるようになるでしょう。
 それには、北朝鮮の核の問題が勃発したときに、オバマ大統領が発表している全世界での核兵器廃絶の政策に支障を与えずに、どのように対応できるのかという問題が起きます。韓国と日本の両国が一方では地域に対する核の脅威があるということ、また、アメリカの拡大核抑止に対する信頼性が低下をしつつあるという観点から、日韓が非核に対するコミットメントを強化する必要が出てくるでしょうし、韓国で日本が核燃料サイクル、あるいは宇宙へのアクセスの活動において協力をしていくこと、そして信頼醸成をやっていくことが必要になるでしょう。そういった根拠がなければ、包括的な安全保障はうまくいかないと思います。
 ただ、こういった考えをするためには、二つの前提条件があります。2国間の反感が、このような協力を現実化しないだろうということです。また、拡大核抑止のアメリカにこの2カ国が保護されていることによって、想定条件が問題になります。ですから、日韓で非核兵器地帯という構想を考える場合に、どのタイプの核爆破装置でも、いかなる目的であっても、開発、製造、管理、所有、検査、配備、輸送を効果的に禁止していかなければなりませんし、遵守の効果的な検証、それから明確な境界線の定義を設けていかなければなりません。
 さらに、法的な拘束力を持つ、非核兵器地帯締約国に対する核兵器の使用、あるいは使用の脅威を与えないという核兵器国からのコミットメントが必要になってきます。こういった構想は良いように聞こえますが、依然として、拡大核抑止であれ、通常兵器による抑止であれ、まだ懸念の種が残っています。  もう一つ、北朝鮮あるいは中国が今後どうなるのかといった疑問に対しても、われわれは答えていかなければいけないわけです。幾つか提案をご紹介しました。こういった非核兵器地帯をこの地域に創成するためには、日本と韓国の間の協力がなぜ不可欠なのかという考えをご紹介しました。これは多くの方が指摘したように、単に政府レベルではなく、市民社会、人対人、地方対地方の協力が非常に重要であり、このような協力がなければ、非核兵器地帯をこの地域に設立することはできないでしょう。
 ですから、国境を越えた市民社会の非核兵器地帯に対するイニシアティブを、今回の長崎会議で作ることができればと思いますし、また、長崎の今回のメッセージを韓国の人たちと共有していきたいと考えます。ありがとうございました。


ノーチラスARI代表/核軍縮・不拡散議員連盟韓国コーディネーター(韓国) イ・キホ
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