NGO代表スピーチ 2
 この美しい都市に再び来ることができ、大変嬉しく思います。私たちを暖かく歓迎して下さったことを感謝いたします。はじめに、「空に響き渡る鐘の音(Echoes in the Sky)」というタイトルの詩を皆さんと共有したいと思います。長崎の被爆が偶然だったことを思うたび、私はいつも衝撃を受けてしまうのです。あの破滅の日、原爆のターゲットは別の都市である、小倉でした。しかし、雲が出ていて小倉への原爆投下を防いだのです。もし小倉に雲がなかったら、長崎に原爆が投下されることはありませんでした。もし長崎上空の雲に切れ間がなかったら、長崎市が被爆することはなかったでしょう。時には、雲のように当たり前の事柄によって、私たちの生活が完全に変わってしまうことがあるのです。それでも、平和な世界を構築し、地球から核兵器を排除しようとする私たちの行動によってもそうなり得るのです。
 伊藤一長市長の悲劇的な死以降、今回が初めての長崎訪問になります。市長のことは、非常に魅力的で温かい人物だったとはっきり記憶しております。市長は核兵器時代を終結させ、長崎に起きたことが今後他の都市に起きないようにする取り組みに深く関わっておられました。今の時代において最重要であるこの問題について市長がリーダーシップを発揮されていたことに、世界中で私たちの多くが心から感謝の気持ちを抱いています。
 長崎は、魅力的であると同時に詩的な都市でもあります。65年前の壊滅的な核の灰から立ち上がり、今や核の脅威のない世界に向けた運動を牽引する国際都市になりました。このような市民集会は、一般市民を核兵器廃絶という任務に取り組ませるための素晴らしい手本となっているのです。長崎の鐘が空に抱かれ響き渡ります。鐘の音は、平和の精神や地球規模の協力、そして許しと愛という変化を引き起こす力を呼び起こすよう至る所の人々に合図を送っているのです。これまで長崎は、日本を訪ねる外国人にとっては常に日本への入口点であり続けてきました。また、世界という外の世界に開かれた扉でもあるので、皆さんのメッセージは、世界が耳を傾ける重要なものなのです。
 私は40年にわたって核軍縮に取り組んできました。1982年に核時代平和財団が設立されてからは財団と共に核軍縮への道を歩んでまいりました。財団における最初の、そして最も重要な目標は、核兵器の廃絶です。私たちは、国際法を強化し、平和の牽引者力として新しい世代に力を与えることを目指しています。これらの目標は互いに切り離しがたいものなのです。国際法も強化せず、平和の牽引者である若い世代に力を与えることもしないなら、核廃絶は実現できないでしょう。ですから、国際法に則ってこの恐ろしい兵器の全面廃絶への要求をするにあたり、私たちは断固とした姿勢を見せる必要があり、平和の牽引者である新しい世代はこの要求に加わり、私たちと共に肩を寄せて立ち上がらなければならないのです。私たちは最後の核兵器が分解され、破壊されるまで、この努力を前進させるために、この若き牽引者の教育を行い、よき助言者となる必要があるのです。
 さてこれから皆さんにオムニサイドと廃絶についてお話ししたいと思います。オムニサイド(全生物殺滅)とはジョン・サマヴィルの造った言葉で、スイサイド(自殺)とジェノサイド(大量虐殺)という概念の延長線上にあります。意味は、あらゆるものの全てを破壊しつくすということです。核兵器はオムニサイドを招く可能性があります。全てのもの、つまり文明、人類という種、その他の生物、芸術、音楽、記憶、詩、文学、過去、未来を破壊する可能性があるのです。想像できるあらゆるものが核兵器によって破壊されうるのです。想像そのものですら、破壊されるかもしれません。私たち人類とはなんと利口な種なのでしょうか。道具を造れる種である私たちが、自分たち自身と他の生物を絶滅できる道具を造ってきたのです。誰にとってもぞっとするようなことではないでしょうか。
 地球上にある核兵器の数は人類の暮らしを終わらせるのに十分であることは間違いありません。スティーブン・スターが年代順に記録した核戦争と気候変動に関する最近の研究では、核戦争によって地球が生息不可能な星になってしまうかもしれないことが確認されています。スターは、核戦争が原因となった気候変動の研究を、次のように述べています。「各都市にある稼働可能な貯蔵核兵器のほんのわずかを爆発させるだけで、地球の気候にとって壊滅的な破壊および地球を保護する成層圏オゾン層の大破壊の原因となるだけの煙を発生させることになる。何千基もの戦略核兵器で闘う戦争が引き起こす環境破壊によって、地球はあっという間に生息不可能な場所になるだろう」。
 こんな危険は決して正当化すべきではありません。こんなリスクを冒し続けることが狂気ではないと言えるでしょうか。そんなことが私たちの政治指導者に見えていないように思えるのは何故なのでしょう。変化に向けたリーダーシップはどうなったのでしょう。
 頼みの綱はバラク・オバマ氏が米国の大統領になったことです。オバマ氏は、「核兵器のない世界の平和と安全保障」を求めています。しかし、自分は世間知らずではないので、これは、自分が生きているうちには達成できそうにないような事柄だということはわかっている、とも言っています。そして、我々は忍耐強くなければならないと言っているのです。しかし、忍耐することで核拡散の可能性が広がり、それが核による大惨事に将来つながることが分かっているなら、オバマ氏はもっと危機感を持って自分の目標を涵養するのではないのでしょうか。
 別の頼みの綱といえば、パン・キムン(潘基文)国連事務総長ですが、事務総長は全ての核不拡散条約加盟国に「核不拡散条約で求められているように、新しい条約、もしくは確かな検証制度に裏打ちされた一連の相互強化手段を通じた核軍縮に関する誠実な話し合いを追及するよう」求めています。これは、国際機関の総長が示した重要なリーダーシップなのです。
 地球市民としての私たちの任務は、オバマ大統領やパン・キムン氏のように核廃絶を追及する指導者に、核兵器による人類への脅威を危機感を持って終わらせるための力強さを与えるようなゆるぎない支持基盤を背中に感じられるよう、十分力強い声を上げることです。
 私たちは大変な仕事を背負い込んでいます。私たちの目標の達成が困難なのは間違いありません。私たちは強大な力に直面しています。そして、自分たちの要求に聞く耳を持ってもらわなければなりません。奴隷制度廃止運動における19世紀の廃止論者として、フレデリック・ダグラスは言っています。「権力は、要求しない限り何一つ譲歩しない。かつて譲歩したこともなければ、これから譲歩することもないだろう」。
 私たちはオバマ大統領に大きな危機感をもって行動するよう促さなければなりません。しかし金正日氏に対しても、話し合いの席につき、安全保障や国家発展への援助と引き換えに今ある核兵器をあきらめ、北東アジア非核兵器地帯に加わるよう促さなければなりません。そして、被爆者の精神を話し合いの席に持ち込まなければなりません。それができれば、許しと愛の変化をもたらす力を使って、「恐ろしい惨事」を避けるためには不可欠だとアルバート・アインシュタインがみなした「変わらない考え方」の変化とそれが反映された新しいエネルギーを話し合いに吹き込むことができるのです。  広島と長崎の被爆者は、何度もの一生分にあたるほどの痛みと苦しみの証言を提供しています。地球の至る所で彼らの声を空に響き渡らせましょう。皆さんにはこの市民集会から5つの行動を起こすようお願いしたいと思います。
 第一に、オバマ大統領をはじめとする世界的指導者を皆さんの都市長崎に招いてください。全てを絶滅させる核の力を目の当たりにしてもらい、それを、変化をもたらす許しと愛の力と比較してもらってください。
 第二に、2010年の核不拡散条約再検討会議に強力な被爆者の代表団を送り込み、会議に参加する各代表者に働きかけて、危機感を持って核兵器の廃絶に取り組んでもらうよう促してください。
 第三に、被爆者の代表団を世界中に送って体験談を若者に話し、この市民集会から出されるアピールを彼らと共有し、核兵器のない世界に向けた努力を牽引するよう若者を激励してもらってください。
 第四に、日本政府に働きかけ、米国の核の傘から出て核の抑止力の延長線への依存に終止符を打ってもらってください。  第五に、広島と長崎の被爆者にノーベル平和賞を送るよう継続して働きかけて下さい。オバマ大統領はこれからしようとしていることでノーベル平和賞を受けました。ですから被爆者は、これまで強力に「Never again!」というメッセージを広める上で彼らが実際に行ってきたことで平和賞を受ける資格があるのです。
  今私は、5月に開催予定の2010年核不拡散条約再検討会議に注目したいと思っています。審議においては、会議における参加国は、制限された利益を求めるのではなく、核兵器の脅威に対する包括的な解決法を追及する上で以下のことを心に留めておくべきなのです。   ・核兵器は地球に暮らす人類とその他の生物に現在、真の脅威であり続けている。
  ・ある国の安全保障が何百万人、いやおそらく何億人もの罪のない人の命を奪うような脅威の上に成り立ち、文明を破壊するリスクがあるのであればそれは、道徳的に決して正当化されるものではない上、最も激しい非難を受けるに値することである。
  ・全面核軍縮のための既存の法的義務を果たさずして、核兵器の拡散を防ぐことはできない。
  ・核拡散の防止と核軍縮実現の両方が、世界中の核エネルギー施設を拡大することで、不可能とは言わないまでも、はるかに困難となってしまう。
  ・核兵器による現在の脅威を排除する方向に世界を持っていくには、現在と未来の世代全体に関わるこの核の脅威についての新しい考え方が必要になる。
   核時代平和財団は、2010年NPT再検討会議での合意における以下の5項目の優先問題を支持します。
1.各加盟核保有国は、それぞれの核保有量に関する正確な公開計量を行い、その核物質の今後の使用に関する公開人間環境アセスメントを行い、ゼロ核兵器に向かうロードマップを考案し、それを公開する。
2.全ての加盟核保有国は、あらゆる核戦力の臨戦警戒態勢を解除し、他の核保有国への核の先制使用をしないよう、そして非核保有国への核の使用を行わないよう宣誓させることで自国の安全保障政策において核兵器の役割を縮小させるべきである。
3.軍事用民間用に関わらず、全ての濃縮ウランと処理済プルトニウム、および(全てのウラン濃縮およびプルトニウム分離技術を含む)それらの製造施設は厳格で有効な国際保障措置の下に置かれるべきである。
4.全ての加盟国は、原子力発電による核拡散問題を考慮した上で平和目的の核エネルギーに対する「奪うことのできない権利」を促進し、NPTの第4条を再検討すべきである。
5.各核保有国は段階的で、証明可能で、不可逆で、透明な核兵器排除に向けた核兵器禁止条約に関する誠実な話し合いを始めることで、1996年の国際司法裁判所の勧告的意見によって、強化され明確になったNPTの第4条に遵守し、2015年までにこれらの話し合いを済ませるべきである。
 NPT再検討会議によって行われる最も重要な行動は、核兵器禁止条約に向けた誠実な話し合いを始めるための合意でしょう。このような合意によって、世界の国々は核兵器のない世界に向けて前進するために必要な政治的な意志を示すことができます。もし米国が、このような話し合いの招集を指揮することができないのであれば、日本にその役割を担ってもらうよう促すことになります。それがどちらの国になるにせよ、このような話し合いは、核による崩壊で苦しんだ最初の都市である広島を皮切りに、同様の苦しみを味わった2番目の都市が最後の都市となるよう願いを込めて長崎で締めくくられるよう提案いたします。
 核兵器禁止条約という新しい条約に向けてこのような話し合いが始められるよう合意されたなら、自分たちの嘆願が聞き入れられたと広島と長崎の被爆者の方がみなすことができるような核兵器のない世界に向かう道を私たちが真剣に歩みはじめたことになると思います。
 最後に「長崎の鐘」という詩を皆さんと共有して締めくくりたいと思います。
長崎の鐘

長崎の鐘が鳴る
苦しんだ人々のために
今もなお苦しむ人々のために

鐘の音は引き寄せる
年老いた女たちを
愛に輝く瞳を持つ恋人たちを

鐘の音は引き寄せる
ぎこちない足取りの幼い子供たちを
爆心地のほうに引き寄せる

長崎の鐘が鳴る
それは小川の流れのごとく
私たち一人一人のために
落ち葉のように絶え間なく鳴り響く
 皆さん、ありがとうございました。響き渡る長崎の鐘の音を世界中に届けましょう。そして、決して希望を失わず、核兵器のない安全で分別のある世界に向けた努力を決して諦めないでください。

核時代平和財団 会長 デビッド・クリーガー
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