基 調 報 告

 本日ここに「第4回核兵器廃絶―地球市民集会ナガサキ」を開催いたします。海外ならびに国内のNGOの皆さん、そして長崎市民の皆さん、ようこそこの集会に参加して下さいました。実行委員会を代表して心から歓迎申し上げます。
 いま核兵器をめぐる国際情勢は大きな転換期を迎えようとしています。米国のオバマ大統領の登場によって、閉塞状況に陥っていた核兵器廃絶への扉が、少しずつながら開かれようとしているからです。昨年の4月5日、プラハにおけるオバマ大統領の演説では、「核兵器のない世界」を目指す具体的な提案が示されました。
 その後、昨年7月には米ロ首脳によって、第一次戦略兵器削減条約(STARTT)に代る新核軍縮条約締結に向け、核弾頭やその運搬手段の削減を伴う大枠が合意されました。新条約が批准されるまでには、なお曲折があるとしても、米ロ間に一つの道筋は示せたことになります。さらにオバマ大統領の呼びかけで昨年9月に開かれた国連安保理首脳会合では、「核兵器のない世界」に向け、共に行動する決意を盛り込んだ決議案を全会一致で採択しました。
 このように少なくとも理念的には、核兵器廃絶への流れは順調な滑り出しを見せているように思われます。しかし実際の交渉面から見た場合、前途には幾多の克服すべき問題点が横たわっていることも事実です。例えばその1つは非核兵器国による核依存政策の問題です。オバマ大統領はプラハの演説のみでなく、東京における演説でも「核兵器が存在する限りは韓国や日本を含む同盟国の防衛を保証するため、強力で効果的な核抑止力を維持する」と繰り返し強調しています。その一方で大統領は「冷戦思考に終止符を打つべく、我が国の国家安全保障戦略における核兵器の役割を低下させ、他の国家にも同調するよう要請する」とも述べています。
 冷戦思考に終止符を打つというのであれば、それは核兵器国のみでなく、非核兵器国にも当然求められねばなりません。その意味から見れば被爆国日本は、1965年以来、米国の核抑止力いわゆる「核の傘」に依存し続け、1989年の冷戦終結以降も実に20年間にわたって同じ状況を続けているのです。大きな理由として挙げられているのは、旧自民党政権下の外交が、北朝鮮や中国の脅威に対して「核の傘」の効力が減じることのないよう、事ある毎に米政府へ要請し続けているためとされています。そしてその点が核兵器廃絶に反対の米国保守派に口実を与え、オバマ構想の実現を阻害する要因ともなっていることが報道されています。
 私たち国内の反核NGOは、こうした日本政府の方針を厳しく批判し、「武力には武力で」との冷戦思考から脱却するよう常に求めてきました。その解決策としては「北東アジア非核兵器地帯」の実現こそ唯一の、そして平和的多国間の安全保障に資する道であることも提言してきました。幸いに新しい民主党政権の幹部は、これまで核兵器政策として「核の先制不使用」や「北東アジア非核兵器地帯」構想を支持しています。ただ党内の足並みがまだ完全に一致しているとは限らず、私たちは今後を期待しつつ、しっかりと監視していく必要があります。
 2つ目は核兵器禁止条約についての問題です。なるほど国連安保理常任理事国(P5)は、安保理首脳会合では全会一致でNPTの強化を決議しました。しかしNPTの強化だけでは、インド、パキスタン、イスラエルの諸国を加盟させることは甚だ疑問です。インドはNPT発足以来、条約の不平等性を批判して加盟を拒否し続けてきました。その強固な反対理由を急に撤回しそうな根拠を見出すことは困難です。ただそのインドも、核兵器禁止条約に対しては常に支持する意思を表明しています。「ハンス・ブリクス委員会」による核兵器の非合法化のためにも、また潘基文国連事務総長の講演によっても推奨されたように、今ほど法的に核兵器を禁止する国際条約の必要性が求められた時はなかったといえるでしょう。
 もしインドがこの条約に加盟すれば、パキスタンもまた加盟する公算が大きいとみなされています。国内の情勢から見て、パキスタンは核兵器がテロ組織に渡る可能性の、きわめて高い国だとする指摘もあります。その点を考慮すれば事態は急を要すると言わなければなりません。これまで毎年のようにモデル核兵器条約案が国連総会に提出されながら、P5中4ヵ国はこれに反対票を投じてきました。P5としての特権的立場を失うのを嫌い、急進的な非同盟諸国提案への反発もあってのこととされています。しかしテロ組織による核兵器入手のリスクを何としても避けたいのであれば、NPTに加えてこの条約の導入を計るのは今を措いてはないと考えます。
 以上、2つの問題点については、明日の分科会で詳細な検討が加えられ、在るべき方向が示されるものと期待します。また分科会3では「核兵器廃絶運動の継承と創造」が論じられる予定です。ここでは次世代の若者はもちろん、ポスト被爆者世代も含めて活発な議論が展開されるに違いありません。更に全体会議では「NPT再検討会議にのぞむ」とのテーマの下に、3ヵ月後に迫った当会議に私たちが何を求めるべきか論じてもらいます。すでに日豪の「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(ICNND)や「グローバル・ゼロ」の提言も出されており、これらをも踏まえつつ被爆地からの発信にふさわしい内容が討議されることを願っています。
 最後に私は、すでに核兵器を保有している国、またこれから所有したいと考えている国の指導者に対して、ぜひとも言っておきたいことがあります。あなた方は恐らく、原爆による破壊力が
いかにすさまじいものであったか、伝聞や記録や映像によってよくご存じのはずです。だからこそ核兵器を保有することによって、安全保障面での外交を有利に導こうと考えたり、或いは自国を誇示する一種のステータスと考えておられるのではありませんか。しかし私から言わせてもらえば、実はあなた方は何一つ肌身で原爆被爆の実相を感じ取ってはおられないのです。あのキノコ雲の下で、一瞬のうちに無数の罪もない市民が抹殺され、即死でない者は血の海の中や炎に焼かれながらのたうち回って絶命し、辛うじて生き延びた者も終生、放射線障害にさいなまれなければならない事実をです。
 そうです。あなた方が核兵器を保有し、またこれから保有しようとすることは、何の自慢にもならないどころか、恥ずべき人道に対する犯罪の加担者となりかねないことを知って頂きたいのです。私たちはあなた方指導者が、単にうわべだけのオバマ構想への賛同者ではなく、真に「核兵器のない世界」の実現に向けて直ちに第一歩を踏み出されるよう、ここ被爆地ナガサキから地球市民の名において強く求めます。

核兵器廃絶地球市民長崎集会実行委員会 委員長 土山 秀夫
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