2010長崎アピール
 私たちは、「長崎を最後の被爆地に」という決意を示すために世界各地から4度核兵器廃絶地球市民集会ナガサキに参集した。2000年に開催された第1回集会において、私たちは「せめて生きている間に、核兵器廃絶を実現して欲しい」という被爆者の声を聞いた。以来、被爆者の願いは実現されることなく10年が経過した。今、再び被爆者の声を聞き、私たちは核兵器のない世界を達成しようという決意を新たにした。被爆者の体験は、ウラン採掘から核兵器の生産、実験に至る核サイクルのすべての過程で生み出された世界中の犠牲者の苦しみを想起させる。

 このことから私たちはいま、手にした好機をとらえて行動しなければならない。
  • 2008年10月24日の国連デーに潘基文国連事務総長が発表した5項目の核軍縮計画。
  • 2009年4月の米国・オバマ大統領のプラハ演説がひき起こした希望のうねり、核兵器のない世界という目標を支持した2009年4月のオバマ大統領とロシア・メドベージェフ大統領の共同声明。両首脳は核兵器の削減に向けた努力を約束した。
  • 日本における政権交代と、「単一目的」核ドクトリン、消極的安全保障の強化、地域的非核兵器地帯の設立を主張した鳩山首相や岡田外務大臣の一連の発言。
  • ドイツ領土からの米国核兵器の撤去を求めたドイツ・べスターべレ外相の声明。これは、NATO(北大西洋条約機構)における核兵器の役割を低減するためのステップとなる。
 核兵器は生命と環境への究極の脅威であり、人権の最たる侵害である。核兵器は誰の手にあっても危険であり、その使用は人道に対する罪である。私たちは政府が市民社会と協力して、核兵器廃絶のプロセスを目に見える形で始めるよう要求する。2010年5月の核不拡散条約(NPT)再検討会議は、この目的を達成するための極めて重要な機会となる。

 このようなことから、私たちは次の行動を訴える。
  1. 核兵器を禁止し、廃絶する条約の準備のために話し合うことを目的として、志を同じくする国家と市民社会の代表が参加するプロセスを創り出そう。そのようなプロセスは潘基文国連事務総長が提案した5項目提案を手掛かりとすべきである。この提案には核兵器禁止条約又は諸条約の枠組みについて話し合いを始めるよう各国に求めた呼びかけも含まれる。ジュネーブでの2008年NPT再検討会議準備委員会において平和市長会議が発表したヒロシマ・ナガサキ議定書もこのようなプロセスを主張している。私たちは2010年NPT再検討会議がこれに賛成するよう求める。
  2. すべての核兵器保有国は、核兵器の削減が進行している間に、その後ではなく、核兵器の研究、開発、実験、部品製造を中止すべきである。その際、製造・研究施設は出来るだけ早い時期に、立ち入った検証体制の下に置かれなければならない。また、核兵器の削減は、全般的な軍縮を推進するような形で、行なわれなければならない。そして、現在、核兵器システムの開発、維持に使われている資金や人的資源は「国連ミレニアム開発目標」に合致する社会的、経済的ニーズに再配分されるべきである。
  3. 核軍縮運動−平和市長会議、核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)、グローバルネットワーク・アボリション2000、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)など−への市民の一層の参加を支持する。核兵器施設への直接行動を含む核兵器に反対する非暴力行動を支持する。とりわけ、このような運動への若い世代のより多くの参加をすすめよう。
  4. 中東、北東アジア、ヨーロッパ、南アジア、北極圏など新しい地域において非核兵器地帯あるいは非大量破壊兵器地帯、さらには一国非核兵器地帯を設立すること。非核兵器地帯は安全保障ドクトリンにおける核兵器の役割を低減し、その地域で核兵器が使用される恐れを減じる実践的な手段を提供する。また、拡大核抑止への依存に替わる現実的な方法を提供する。特に、私たちは日本と韓国の政府に対し、北東アジア非核兵器地帯の創設に向けた計画を準備し、公表するよう要求する。それは、朝鮮半島の非核化のための6か国協議に好ましい環境を生み出すであろう。
  5. 被爆者に会い、核兵器使用の結果を自分の目で見てもらうために、オバマ大統領をはじめ世界の政治指導者の広島・長崎への訪問を求める。被爆者の苦しみは彼ら自身のみならず次の世代にも及ぶ。広島・長崎の被爆者のあらゆる側面の体験を、世界の人々に広く伝えることが重要である。唯一の被爆国として日本は、この点において貢献すべき特別の役割を有している。
 最後に私たちは、すでに核兵器を保有している国、またこれから所有したいと考えている国の指導者に伝えたい。あなた方はおそらく、原爆による破壊力がいかにすさまじいものであったか、伝聞や記録や映像によって理解しているつもりなのであろう。だから核兵器を保有することによって、安全保障面での外交を有利に導こうと考え、あるいは自国を誇示する一種のステータスと考えているのではないか。しかし、私たちは見抜いている。実は、あなた方は何ひとつ肌身で原爆被爆の実相を知らない。あのきのこ雲の下で、一瞬のうちに無数の罪もない市民が抹殺され、即死でない者は血の海の中や炎に焼かれながら、のたうち回って絶命し、かろうじて生き延びたものも終生、放射線障害に苦しまなければならなかった事実を理解していない。
 あなた方が核兵器を保有し、またこれから保有しようとすることは、なんの自慢にもならない。それどころか恥ずべき人道に対する犯罪の加担者となりかねないことを知るべきである。私たちはあなた方指導者が、真に「核兵器のない世界」の実現に向けて直ちに第一歩を踏み出されるよう、ここ被爆地ナガサキから地球市民の名において強く求める。
2010年2月8日
第4回 核兵器廃絶―地球市民集会ナガサキ